2.<姉様人形>の定義

姉様人形とはどのようなものなのでしょうか?
<姉様人形>=<あねさま>は、人形を模して人形にはあらず

世の中にあまた存在する、紙で出来た和風の人形の元祖になった人形です。

「今世の児女平日の遊びに白紙を筆軸に巻て之を押皺め、其半ばを開き軸を抜き去り、
皺紙の筒なる中に紙よりを通し輪の如くして之を結ぶ。其輪乃ち鬢髱となり、
紙よりを以て結び合わせたる所には、別の白紙を竪長に折て輪の内外に之を当て下にて又是も結び、

其白紙の所下は顔也。上は前髪となる。開きたる所を島田髷或いは丸髷にも之を結ぶ。(中略)
江戸先年は髷のみ皺紙を用ひ、鬢髱紙を切抜いて之を造ると云へり。
昔の鬢髱は扁なる故也。又今世江戸も自製することあれども或いは小賈之を造りて群衆の路頭に売る。
必ず背面を向けて立ち並び置けり。(中略)背面実に美人の如し。 」(※1『守貞漫稿』より)


『守貞漫稿』(国立国会図書館蔵)※写真1

『守貞漫稿』(国立国会図書館蔵)※写真2


『守貞漫稿』を翻刻した『近世風俗志(四)』宇佐見英機校訂

筆の軸に半紙を巻いて押し皺め・・・というのは、姉様人形の髪の作り方で、この作り方は今でも変わっていません。
戦前から縁日の露天などで売られていた<あねさま>も、全て江戸時代から伝わった作り方です。
必ず背面を向けて並べ、その姿は実に美人であると述べられています。
この古い記述から、<あねさま>の原型を伺い知ることが出来ます。

(1)姉様人形とは、究極の簡略美を示すものなり。
あねさまは、手も足もない、時として目鼻もない。
ぎりぎりのところまで姿を省略し、その姿故に美しさを感じるものが姉様人形です。

(2)姉様人形とは、日本髪の美しさを見せるものなり。
日本髪の美しさは、外国には類を見ない複雑かつ華麗なもので、
その時代の流行によって生まれたさまざまな髪型を模したものである。
あくまでも髪型の美しさを強調したものがあねさまです。

(3)姉様人形とは、後ろ姿を見せるものなり。
日本髪の結い姿及び、帯結び等の鑑賞のため後ろ姿を重視したデザインである。
故に、主に後ろ向きに置かれるのが姉様人形です。


『かつらあねさま』桂川澄子著より髪型9種 婦人生活者(昭和54年発行)

「あねさまは人形を模したものではあっても、決して人形ではない」というのは、郷土玩具研究家の稲垣武雄氏の言葉。
姉様人形などと呼ばずにあえて<あねさま>と呼んで欲しいと、その魅力について語っています。
昭和40〜50年代のクラフトブームの中で、姉様人形も人気となりました。
様々な制作者が作品を発表するようになり、出版物も多数見受けられますが、個人の創作人形的なものは除き、
ここでは上記のような古典的な容姿を網羅し、その土地で受け継がれて来た昔ながらのものを中心に取り上げたいと思います。

*ご注意(この定義は私が独自の解釈で位置づけたものですので、ご了承下さい。)

※「守貞漫稿」嘉永6年、喜多川守貞によって著された26篇の見聞録。
古書の渉猟のほか、当時の世相、風俗、遊びなど、生活全般に渡ることが記されている。
ことに姉様人形の作り方は、図をかかげて詳細に述べられている。


参考文献
:「あねさま生い立ち考」:稲垣武雄(『江戸あねさま』マコー社 昭和47年発行)
※写真1・※写真2:『守貞漫稿』(国立国会図書館蔵)『姉さま人形』ハンドクラフトシリーズ(株式会社グラフ社 昭和50年発行)より

姉様Top 1.はじめに 2.<姉様人形>の定義 3<あねさま>の歴史 4日本各地の<あねさま>


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